研修業界の構造変化2026-07-16監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

研修の内製化が進む時代、外部講師・研修会社の生存戦略とは

この記事の要点

「山根さん、今年からこの研修、内部でやろうかと思ってて」――ある人材育成部門のマネージャーから、そう告げられたのは去年の秋でした。

結論から先に申し上げると、僕はこの「内製化の波」自体を悲観していません。むしろ、外部講師・研修会社・インストラクショナルデザイナーの役割が「教える人」から「内製化を支える人」へ移り変わる、その分岐点に僕たちは立っていると考えています。この記事では、なぜ内製化が加速しているのか、どこまでが内製化され、どこからが外部に残るのか、そして今日から何を変えていけばいいのかを、僕の体感値と業界動向を接続しながらお話しします。

0. 「もう内部でできそうです」と言われた日

冒頭で触れたそのマネージャーとの会話には、続きがあります。彼女はこう言いました。「新人研修とコンプライアンス研修は、もう社内の若手にファシリテーターをやらせられる。AIで教材の下書きも作れるようになったし、正直、外部にお願いする必要性が薄くなってきた」。僕はその場で反論しませんでした。むしろ「その判断は合理的だと思います」と伝えた記憶があります。なぜなら、定型的な知識伝達型の研修――たとえば新人向けのビジネスマナー、コンプライアンス、基本的なOAスキルなどは、教材のテンプレート化とAIによる下書き生成の恩恵をもっとも受けやすい領域だからです。

一方で、その同じ会話の中で彼女は「でも、管理職の意識変革研修とか、部門間の対立を解くようなワークショップは、外部の人にやってもらいたい気持ちが強い」とも語っていました。僕はこの一言に、内製化時代における外部講師の生存領域がそのまま表れていると感じています。内製化される部分と外部に残る部分は、企業の都合ではなく「研修の性質」によって分かれる。この境界線を正しく把握できているかどうかが、今後の外部講師・研修会社の立ち位置を大きく左右すると僕は考えています。

1. なぜ今、研修の内製化が加速しているのか

内製化の加速には、大きく二つの背景があると僕は見ています。一つは、厚生労働省が推進するリスキリング支援策の広がりです。人材開発支援助成金など、企業が自社で人材育成の仕組みを構築することを後押しする制度が整備され、企業側にも「自前でやる」インセンティブが強まっています。もう一つは、生成AIを活用した教材作成・スライド生成・LMSコンテンツの自動化が実務レベルで使えるようになったことです。数年前まで外部発注が前提だった教材の初稿作成が、社内の担当者一人でも一定水準までこなせるようになった、というのが僕の現場での体感値です。

ただし、ここで注意したいのは「内製化できる」ことと「内製化した方が効果が高い」ことは必ずしも一致しない、という点です。教材のテンプレート化が進んだことで、内製化のハードルは下がりましたが、それによって研修の質が担保されるかどうかは別の話です。実際、僕が相談を受けたケースの中には、内製化した研修の受講後アンケートで満足度が下がり、翌年また外部発注に戻したという企業もありました。これは決して珍しい話ではなく、内製化の第一波が過ぎたあとに「揺り戻し」が起きるパターンとして、業界内でもよく語られる現象だと感じています。つまり内製化は一方通行の潮流ではなく、行き過ぎれば戻ってくる余地がある、という前提を持っておくことが大切だと思います。

2. 内製化される研修と、外部に残る研修の境界線

僕はこの境界線を、大きく三つの軸で捉えています。一つ目は「知識伝達型か、行動変容型か」。定型知識を伝えるだけの研修は内製化しやすく、行動や価値観の変容を促す研修は外部の専門性が求められやすい傾向があります。二つ目は「頻度」です。毎年同じ内容を繰り返す新人研修などは、社内にノウハウが蓄積されやすいため内製化が進みやすい一方、数年に一度しか実施しない組織変革系のプロジェクトは、社内に専門知見が育つ前に終わってしまうため、外部依存が続きやすいと僕は見ています。三つ目は「利害関係の有無」です。社内の人間関係が絡む対立解消や評価制度に関するワークショップなどは、社内講師では「本音を引き出しにくい」という構造的な限界があり、これも外部が残りやすい領域だと考えています。

この三つの軸を踏まえると、内製化の波は「頻度が高く、利害が絡まない、知識伝達型の研修」から順に進んでいくと予測できます。逆に言えば、外部講師・研修会社が生き残るべき領域は、この逆側――低頻度・利害が絡む・行動変容型の研修に集中していく、というのが僕の見立てです。ここを見誤って「自分の得意分野は内製化されるはずがない」と思い込んでいると、思っていたより早く仕事が減っていく、というケースを僕はいくつも見てきました。

3. 外部講師・研修会社に求められる役割転換

ここからが本題です。僕は、外部講師・研修会社に求められる役割が「教える人」から「設計者・伴走者・診断者」へ移っていくと考えています。具体的には三つの方向性があります。

一つ目は「内製化支援そのものを商品化する」方向です。研修を自分で実施するのではなく、社内講師を育てるカリキュラムを作り、社内講師が独り立ちするまでの立ち上げ期を伴走する。これは「教える仕事」から「教える人を育てる仕事」への転換であり、僕の周囲でもこの分野に軸足を移す講師が増えている印象があります。二つ目は「診断・アセスメントに特化する」方向です。組織の課題を可視化し、どの研修をどの順番で実施すべきかを診断する役割は、社内の人間には担いにくく、外部の客観性が求められやすい領域です。三つ目は「行動変容・組織開発領域に専門特化する」方向です。単発の知識研修から離れ、中長期の組織変革プロジェクトに関わることで、内製化の波が及びにくいポジションに移る、という考え方です。

いずれの方向も、共通しているのは「研修の実施そのもの」から一歩引いた位置に自分を置くという点です。これは僕の体感値ですが、この移行に成功した講師は、内製化の波をむしろ追い風にできているように見えます。社内で研修を回せるようになった企業ほど、その仕組みを作った外部の専門家への信頼は厚くなる、という構造があるからです。

4. 今日からできる実務アクション5ステップ

抽象的な話だけで終わらせないために、今日から始められる実務ステップを整理します。あくまで僕の独自ガイドとしての目安値であり、業界統一の指標ではありませんが、参考にしていただければと思います。

  1. 自分が過去1〜2年で担当した研修メニューを一覧化し、それぞれを「知識伝達型」か「行動変容型」かで色分けする。
  2. 色分けした中で「知識伝達型」に分類されたメニューの比率を出す。僕の体感値では、この比率が全体の6〜7割を超えている場合、内製化の影響を受けやすい構造になっている可能性が高いと感じています。
  3. 「行動変容型」「診断・アセスメント型」のメニューを、今後1年で意図的に増やす計画を立てる。
  4. 既存クライアントに対して「社内講師育成の支援」というメニューを一つ提案してみる。断られても構いません。提案そのものが、自分の立ち位置を「教える人」から「支援する人」へ動かす第一歩になります。
  5. 厚生労働省や経済産業省が公表しているリスキリング関連の政策資料に、四半期に一度は目を通す習慣をつける。制度の方向性を早めに把握しておくことが、クライアントより一歩先を行く提案力につながると僕は考えています。

特に4番目のステップは、心理的なハードルが高いと感じる方も多いと思います。僕自身、初めてクライアントに「内製化支援メニュー」を提案したときは、正直「今の契約を失うのではないか」という不安がありました。しかし実際には、既存の契約を守りながら新しいメニューを併走させる形で進めることができ、結果的に契約年数が延びたケースもありました。提案すること自体が関係を壊すわけではない、というのが僕の実感です。

5. よくある失敗と、その対処

内製化時代への対応でよく見かける失敗パターンを二つ挙げます。一つ目は「内製化の波を過度に警戒し、防衛的な提案ばかりしてしまう」パターンです。クライアントに対して「内製化はリスクが高い」と繰り返し伝えることで、逆に「この講師は自分の仕事を守りたいだけなのでは」と警戒されてしまうケースを僕は見てきました。内製化そのものを否定するのではなく、「内製化して良い部分」と「外部に残すべき部分」を一緒に整理する姿勢の方が、長期的な信頼につながりやすいと感じています。

二つ目は「役割転換を焦って、専門性が中途半端になる」パターンです。組織開発や診断業務に手を広げようとして、既存の強みだった研修設計のクオリティが落ちてしまう、という相談も実際に受けたことがあります。役割転換は一気に行うものではなく、既存メニューの一部を段階的に置き換えていくくらいのペースで進める方が、リスクを抑えられると僕は考えています。焦って全部を変えようとせず、まずは提案の一つを増やす、というくらいの歩幅がちょうど良いのではないかと思います。

6. ケース比較:3つの生存パターン

ここまでの内容を整理する意味で、外部講師・研修会社が取りうる3つの方向性を、僕の体感値ベースで簡単に比較します。

方向性主な仕事内容内製化への耐性
内製化支援型社内講師の育成カリキュラム設計、立ち上げ期の伴走高い(内製化を追い風にできる)
診断・アセスメント特化型組織課題の可視化、研修計画の設計コンサルティング高い(客観性の需要が続く)
知識伝達型維持定型的な新人研修・コンプライアンス研修などの実施低い(内製化の影響を最も受けやすい)

この表を見て「自分は知識伝達型維持に近い」と感じた方も、悲観する必要はないと僕は思っています。知識伝達型の研修であっても、地域特性や業界特有の事情に強く紐づいたニッチな分野であれば、内製化されにくいケースもあります。重要なのは、自分がどの方向性に近いのかを一度可視化し、そこから少しずつ耐性の高い方向へ歩幅を動かしていくことだと考えています。

(結論)内製化は敵ではなく、役割の再配置を促す合図

研修の内製化は、外部講師・研修会社の仕事を奪うものではなく、僕たちの役割を「教える人」から「設計者・伴走者・診断者」へ再配置するよう促す合図なのだと思います。定型知識研修が内製化されていくのは、ある意味で自然な進化であり、そこにしがみつくよりも、内製化されにくい領域――行動変容、組織開発、診断、そして内製化そのものの支援――へ少しずつ軸足を移していく方が、中長期的には安定すると僕は考えています。今日ご紹介した5つのステップは、どれも今日中に始められる小さな一歩です。まずは自分の研修メニューを色分けするところから始めてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。内製化の波を追い風に変えられるかどうかは、この境界線を早く見極められるかどうかにかかっていると僕は思います。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 研修の内製化が進むと、外部講師の仕事はなくなりますか

僕はゼロにはならないと考えています。定型的な知識伝達型の研修は内製化されやすい一方、組織の変革や個別診断を伴う研修は外部の専門性が必要とされ続ける傾向にあります。境界線を見極め、内製化されにくい領域に自分の提供価値を再配置していくことが、外部講師として生き残る鍵になると考えています。

Q. 内製化支援ビジネスとは具体的に何をするのですか

企業が自社の社内講師やLMS運用者を育て、研修を自前で回せるようにするための設計・型化・立ち上げ期の伴走を行う仕事です。研修そのものを実施するのではなく、内製化の仕組みを作る側に回る点が従来の講師業と異なります。教材を渡すだけでなく、社内講師の育成カリキュラムまで請け負うケースが増えていると僕は感じています。

Q. フリーランス講師は内製化の波にどう備えればいいですか

まずは自分が今提供している研修メニューを、内製化されやすいものと残りやすいものに分けて棚卸しすることをおすすめします。定型知識系に偏っている場合は、組織開発や変革支援、アセスメント設計など内製化されにくい領域へ段階的にシフトすることが、中長期的な安定につながると僕は考えています。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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