キャリアパス2026-07-09 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

インストラクショナルデザイナーというキャリアの選び方

この記事の要点

「登壇より、研修の設計そのものに興味があるんです」。研修講師として5年ほどキャリアを積んだ方から、こう相談を受けたことがあります。この方が興味を持っていたのは、インストラクショナルデザイナー(ID)というキャリアでした。

率直に言うと、IDというキャリアはまだ日本の転職市場で認知が広がりきっていない職種です。ただ、企業がAIを使って研修の一次生成をこなせるようになった今、「その研修がなぜその構成になっているのか」を設計できる人材の価値は、むしろ上がっていると僕は見ています。誤解がないように申し上げると、IDは「研修講師の格上」という単純な話ではなく、必要とされる能力の種類が異なる別のキャリアです。

0. 前提 — IDは「話す人」ではなく「学びの構造を作る人」

まず整理します。研修講師は「話す人」、IDは「学びの構造を作る人」です。学習目標を明確化し、その目標に到達するために必要な情報を、どの順序で、どの手法(講義・ワーク・eラーニング・OJT)で届けるかを設計するのがIDの仕事です。登壇するかどうかは、IDの仕事の中心ではありません。

1. なぜ今、IDというキャリアの価値が上がっているのか

生成AIが研修スライドの初稿やeラーニング教材のテキストを作れるようになったことで、「素材を作る」工程のハードルは下がりました。一方で、その素材を「どういう順序で、どういう構成で使うと学習効果が最大化するか」を設計する力の重要性は、むしろ相対的に高まっています。素材が増えるほど、構成の質が結果を左右するようになるためです。企業の人材育成投資に対する説明責任が強まる流れ(出典:厚生労働省の人材開発支援施策。詳細は厚生労働省の発表をご確認ください)のなかで、設計の根拠を語れるIDの需要は増える方向にあると考えられます。

2. 研修講師からIDへの転身の道筋

僕が見てきた範囲では、IDへの転身で成功しやすいのは、「なぜこの研修はうまくいかなかったのか」を考え続けてきた経験を持つ人です。研修講師として現場に立つ中で、「このワークの順序を変えたら理解度が上がるのではないか」といった仮説を持ち続けてきた人は、その仮説検証の経験そのものがIDとしての強みになります。転身にあたっては、過去に担当した研修の構成を振り返り、「なぜその構成にしたのか」「もし作り直すならどう変えるか」を言語化する準備をしておくと、面接での説得力が大きく変わります。

企業の人材育成部門の担当者からの転身も同様のパターンが多く見られます。社内研修の企画・運営を通じて、複数の部署や経営層の要望を1つの研修設計に落とし込んできた経験は、IDに求められる調整力そのものです。

3. IDに向いている人・向いていない人

向いているのは、人前で話すことよりコンテンツの構造を考えることに没頭できる人、学習効果をデータで検証し設計を改善し続けることに抵抗がない人、複数のステークホルダーの要望を1つの設計に落とし込む調整力がある人です。逆に、その場のライブ感や受講者との直接的な対話にやりがいを感じるタイプの人は、ID専業よりも研修講師としての強みを伸ばす方が向いている可能性があります。どちらが優れているという話ではなく、得意な工程が違うということです。

4. 実例で見る — 転身がうまくいったケース

Iさんは、大手企業の研修講師として8年働いていました。あるとき、自分が担当していた新人研修のうち、あるワークだけ極端に理解度が低いことに気づき、独自にアンケートを取って原因を分析しました。原因は「ワークの前提説明が不足していたこと」でした。この分析経験を転職の面接で具体的に語ったところ、IDとしてのオファーを得ることができました。Iさんの強みは「話す力」ではなく、「なぜうまくいかなかったかを構造的に考える力」だったのです。

5. IDとして評価されるポートフォリオの作り方

ID未経験からの転身を目指す場合、最大の壁は「設計の実績をどう見せるか」です。登壇歴のように分かりやすい実績がないぶん、面接官にIDとしての力量をどう伝えるかが課題になります。僕がお勧めしているのは、過去に関わった研修を「設計者の視点」で書き直したポートフォリオを作ることです。単に「この研修を担当しました」ではなく、「この研修は当初、受講者の理解度が低いという課題があった。学習目標を再定義し、講義とワークの比率を変えたところ、理解度が改善した」というように、課題・仮説・設計変更・結果の4点セットで説明できる形に整理します。これができれば、登壇経験しかない人でも、設計者としての思考力を示すことができます。

もう1つ有効なのは、小さな設計改善を実際にやってみることです。今の職場で担当している研修の一部分だけでも、学習目標を明文化し、評価方法を先に決めてから内容を作るという手順を試してみる。この実践自体が、面接で語れる具体的な経験になります。理論を学ぶだけでなく、小さくても実践した経験があることが、IDとしての説得力を大きく左右します。

6. 実例で見る — ポートフォリオ作成が転身を後押ししたケース

Pさんは、企業の人材育成担当者として5年働いていましたが、ID職種への転身を考えていました。当初は「特別な実績がない」と感じていましたが、過去に担当した新人研修を振り返り、課題・仮説・設計変更・結果の4点セットで3つの事例をまとめたポートフォリオを作成しました。面接では、このポートフォリオを使って「なぜその設計にしたのか」を具体的に説明でき、面接官から「設計の思考プロセスがよく分かる」と評価されました。特別な実績がなくても、既存の経験を設計者の視点で言語化し直すだけで、評価は大きく変わることを示す事例です。

まとめます。①IDは登壇ではなく学習目標からの逆算設計を担う職種で、研修講師とは評価軸が異なる。②研修講師や人材育成担当者からの転身が多く、現場経験の言語化が評価の鍵になる。③構造化思考・データ検証への抵抗のなさ・調整力が適性の目安になる。

登壇の実績がなくても、IDというキャリアの道は開けます。大事なのは、「教える」から「設計する」への視点転換ができるかどうかです。誤解がないように申し上げると、この視点転換は一夜にして起きるものではありません。日々の研修運営の中で「なぜこの設計なのか」を問い続ける小さな習慣の積み重ねが、いつの間にかIDとしての思考力を育てています。焦らず、今の仕事の中で問いを持ち続けることから始めてみてください。周囲の同僚や上司に「なぜこの設計にしたのか」を積極的に共有し、フィードバックをもらう習慣をつけることも有効です。1人で考え込むより、対話の中で設計思考は磨かれていきます。小さな問いの積み重ねが、いつか大きな設計案件を任されるだけの信頼につながっていくはずです。

皆さんいかがでしたでしょうか。まずは15問の適性診断で、自分がインストラクショナルデザイナー型に向いているかを確かめてみてください。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. インストラクショナルデザイナーとは何をする職種か

学習目標の設定から、コンテンツ構成、評価方法の設計まで、研修・教材全体の「設計図」を作る職種です。登壇そのものより、なぜその内容を、どの順序で、どう学ばせるかという設計に責任を持ちます。研修講師が「話す人」であるのに対し、IDは「学びの構造を作る人」という位置づけです。

Q. 研修講師からインストラクショナルデザイナーへの転身は可能か

可能です。多くのIDは元研修講師や企業の人材育成担当者からの転身で、現場で「なぜこの研修がうまくいかないのか」を考え続けてきた経験が強みになります。転身にあたっては、経験の言語化(なぜその構成にしたのか、根拠は何か)を意識的に行うことが評価されるポイントです。

Q. インストラクショナルデザイナーに向いているのはどんな人か

人前で話すことより、コンテンツの構造を考えることに没頭できる人が向いています。また、学習効果をデータで検証し、設計を改善し続けることに抵抗がない人、複数のステークホルダー(経営・現場・受講者)の要望を1つの設計に落とし込む調整力がある人も適性があります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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